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"F(エフ)"の系譜

ニコン F3

誕生 (F)

ニコンF3の前身、ニコンFが発売されたのは1959年のこと。当時としては画期的だったのが
交換式ファインダー(のぞき窓)やモータードライブ(自動巻き上げ機)、フラッシュ等を
すべてひとつのシステムとして考え、設計されていた点にあった。
そして何よりすぐれていたのが道具としてのその堅牢性で、まさに故障知らずであった。

あるとき、ひとりの写真家が撮影中に誤って愛用のニコンFを水中に落としてしまった。
彼はやむなく撮影済みのフィルムを救うため(濡れた未現像のフィルムを乾かして
しまうと、乳剤面が癒着して現像不能となる)なんとカメラを水没させたまま
現像可能な場所まで運び、フィルムを現像した。その後乾かされたカメラはなんの不具合も
なく正常に動作したという。現在の電子化されたカメラではあり得ないことではあるが
その基本機構がいかに頑丈に造られているかよく分かるエピソードである。

熟成 (F2)

そのニコンFの後継機が1971年に発売されたニコンF2である。外観や機構には
大きな変更は見られない地味なモデルチェンジと思えるが、シャッター機構が大きく
進歩し、Fでは1/1000秒であった最高シャッタースピードがF2では1/2000秒へ
引き上げられている。これは35mmフィルムの規格である36mm×24mmという画面サイズの
長辺を走る横走りシャッターが安定して露光できる最高速といえる速度である。
このモデルも初代F同様にほぼ全ての機構が機械式制御で、仮に電池がなくなっても
ファインダー内蔵の露出計が動かなくなるだけで、撮影自体は何の影響もうけない。
いまでもプロ・アマの別なく愛用者の多いカメラである。

進化 (F3)

1980年にニコン”Fひと桁”シリーズとしては初めての電子制御機能を搭載した
ニコンF3が発売となる。F、F2との大きな違いは露出計をボディ内部に内蔵していること。
このため、Fシリーズの特徴でもある交換式のファインダーを別のものに換えても
露出計の使用が可能であり、同時に現在では当たり前のAE(自動露出機能)を
シリーズでははじめて搭載している。その代わり、電池の消耗時には露出計の使用は
もちろん、電子制御のシャッターすら切ることができないという弊害も生んでいる。
このため、電池消耗時にも最低限の撮影は可能なように1/60秒で動作する機械式の
緊急シャッター機構を備えている。また、一体デザインされた最高速6コマ/秒の
モータードライブを装着すると、カメラ本体の電源もモータードライブ側から
供給されるよう自動的に切り替えられ、電池の能力が非常に低下するマイナス20℃
という極低温下でも比較的多くの撮影ができるよう配慮されている。

ボディのバリエーションも豊富に存在し、ベースモデルの『F3』の他、メガネをかけたままでも
被写体像が見やすいファインダーを装着した『F3/HP』、その外装を強固なチタン製とした
『F3/T』、さらにそれを元にした報道機関用モデル『F3/P』とその限定市販バージョン、
ミラーを透過型の固定式へと変更し、専用モータードライブとの組み合わせで13コマ/秒という
超高速連続撮影を可能としたモデル『F3/H』、ボディ内にレンズとの電気接点を増設し、ピント
検出機能を持つファインダーを装備して専用レンズとの組み合わせでオートフォーカスに
対応した『F3/AF』などがある。販売期間が長かったのも特徴で、後継の後継F5が登場して
なお、足かけ20年にもわたり製造が続けられた、Fシリーズ最長寿モデルである。

発展 (F4,F5)

1988年、オートフォーカス(AF)機能を搭載して発売されたのがF4である。前身のF3にも
後期にはAF機が追加されていたが、対応レンズも2本と少なく本格的なAF機とは
いい難いものであったので、実質的にFシリーズ初のAF機といえるのがF4だ。
同時にレンズとの接続が従来の機械的連動から電気的連動に変わり、使用できる
AEモードが絞り優先・シャッタースピード優先そしてカメラ任せでOKのプログラムモードが
選択可能となっている。測光方式も画面中央部のみを測る中央部重点測光方式のほかに
中級機・ニコンFAで採用された画面を分割して測光する『マルチパターン測光』が
シリーズ初採用された。また、シャッター機構がF3までの横走り方式から
画面の短辺を走る縦走り方式にあらためられ、幕速の向上とあいまって1/8000秒の
最高速と1/250秒以下でフラッシュと同調する(F3では1/80秒以下であった)ようになった。
また電子化が進んでより水に弱くなったため、防滴能力が加わったF3の後期モデルと
比較してもさらに高い防滴能力を与えられている。

1996年、F4の後継となるF5が発売されたが、『質実剛健・高信頼性』という思想を
詰め込みすぎたか、きわめて巨大なモデルとなった。操作部は従来のアナログ的な
ダイヤル式からボタン式へ変わり、大型の液晶表示パネルが上部に設けられている。
露出機能は大幅に進化している。F4でも被写体までの距離をレンズから受け取る機能が
あったが、F5ではそれに加えて色情報も加味して露出を決定するモードが追加されている。

至高 (F6)

2006年1月、ニコンがフィルムを使用するカメラとそのレンズ・アクセサリー等の
ラインナップを大幅に縮小し、カメラ事業はデジタル方式に注力すると発表した。
そんな中で入門機として高い人気を持つFM10とともにラインナップに残ったのが
Fシリーズの最新機F6(2004年)である。大きくなりすぎたF5に対して徹底的にシンプル化が
図られており、Fシリーズの伝統でもあった交換式ファインダーすらも固定式へ
変更されている。その軽量効果は大きく、F5で1200gを超えていた重量はF6では
970g程度にまでシェイプアップされている。

Fシリーズの集大成といえるモデルに仕上がっているF6だが、この後継モデルが
発売される可能性はきわめて低いであろう。今やカメラの販売は大半がデジタル方式と
なっており、フィルムカメラの市場は急速に縮小している。デジタル方式一眼レフの
性能向上もめざましく、特殊用途をのぞけばプロ用としても申し分ないクオリティの
写真が撮れるようになってきている。だからこの"F"は実質的に至高の"F"であり
最後の"F"と思えるのである。

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